空き家事前事後対策権利調整東京都
No.7

借地権相続と空家問題を解決
~姉妹の想いを実現したコンサルティング事例~

はじめに

 私は長年、不動産仲介業務に疑問を抱いておりました。売買代金が1,000万円であろうが1億円であろうが、業務として行う内容はほぼ変わりません。しかし、仲介手数料は売買代金の3%であり、どんなに問題があろうが、解決すべき課題が多かろうが、仲介手数料は売買代金の大小によって決められています。そのため、多くの不動産仲介業者の営業マンの評価軸は、手数料のため売買代金が小さい物件ほど後回しにされがちです。
 お客様の悩みを深く掘り下げていくのが営業の仕事で、解決すべき課題を明確にしていきゴールへと一緒に導いていくのがコンサルタントの仕事だと私は思っています。会社に属する営業マンは、会社の都合で解決の手を差し伸べたくても利益優先の判断を迫られることもあるでしょう。ビジネスである以上はボランティアであってはならないのは当然です。しかし、売買代金の大きさで判断するべきではなく、お客様の悩みの深さで判断すべきです。その結果、仲介になるかコンサルになるかだけです。
 今回の案件は、お客様がかかえる問題を深堀することで課題が明確となりコンサルティングにつながった事例です。

概要

東京都足立区某所
旧法借地権
土地面積:約158㎡
建物面積:昭和39年築木造2階建延面積約151㎡
     増築未登記約38㎡ 
地代:約1.6万円

*敷地図面

相談経緯

 地主(底地人)から、借地人の相続に伴う借地契約の名義変更の対応を依頼されました。借地人であったご両親が亡くなり、相続人である子供が地主に名義変更の申出があったようです。地代は継続して支払われているものの、ご両親の逝去後、借地上の建物は空き家となり、適切な管理が行われていませんでした。その結果、雑草や樹木が伸び放題となり、隣地や道路に越境してしまい、近隣住民から不安の声が寄せられていたようです。
 そのため、相続人と直接お会いし、状況を詳しくヒアリングしました。借地権は単独で姉が相続したものの、妹と共有でアパート建築したい希望。しかし、状況等ヒアリング過程でさまざまな課題が明確になり、最終的にコンサルへとつながりました。この時点だけで考えられる問題が3つありました。

① 地主との権利関係の問題(借地上建物名義も姉単独)
② 妹が借地権利持たずに建物共有名義で建替えた場合の二次相続リスク(建物名義だけ持って借地権利が妹にはない)
③ 借地契約上での建替え条件等の地主の承諾

 本件では、相続した空家が借地権であったため、たとえ地主と借地権者の関係が良好であったとしても、ちょっとした認識の違いが原因で関係が悪化する可能性もあります。そのため、相続された借地人には借地権について正しく理解してもらうとともに、地主の協力も不可欠であることを認識していただく必要がありました。

現状での課題点等整理

 借地人との面談とヒアリングを通じて、借地権を第三者へ譲渡する意向はなく、姉妹で活用していきたいという強い想いがあることがわかりました。生まれ育った実家を手放す選択肢は、依頼者にとって考えにくいものでした。しかし、その想いを実現するに当たり、以下のような課題もありました。

  • 借地権自体は長女単独で相続したものの、妹と共有で建物を建て替えたい
  • 地主への建替え条件等での承諾が必要
  • 両親が住んでいた際は、居住空間が1階の居間だけで、その他部屋はゴミ屋敷状態
  • 相続した空家は借地で地代だけ支払い続けている状態
  • 樹木等が伸びきって隣地や道路まで越境され近隣から火災等の心配の声が上がっていた
  • 足立区で地域危険度等が高く不燃化特区に指定されているエリアでの空き家

 姉妹は実家を手放したくないと考えていたにもかかわらず、なぜ姉が単独で借地権を相続したのか?その背景には、すでに他界した兄の子供2人との遺産分割をめぐる争いがあったようです。姉妹は生まれ育った実家を守りたいという強い想いを持っていましたが、遺産分割の争いを早急に終わらせるため、姉が単独で実家を相続し、その他財産は現金で分割する形をとったとのことでした。その後、借地権者となった姉とコンサル契約を締結し、具体的な活用方法を検討することとなりました。

*相続関係説明図

課題解決手段

 まず、姉妹に対して借地権に関する基本的な説明を行い、地主には建替えなどの条件整理を進めました。借地権付きの不動産は、地主との関係が悪化すると不動産価値が下がるリスクがあるため、円滑な関係を維持することが重要です。今回は、地主と借地人の関係が良好だったこともあり、互いの条件調整をスムーズに進めることができました。
 姉妹は「自分たちで借地を活用したい」という強い想いを持っていましたが、借地権は姉が単独で所有している状態でした。そのため、妹が借地上の建物の所有権を半分持ったとしても、妹が亡くなった際に借地権の権利関係で問題が生じる可能性があります。そこで、姉の借地権を妹に半分贈与することで、姉妹それぞれが借地権を所有する形をとり、それぞれが建物を建てる計画を提案しました。贈与税の問題もありますが、姉妹の二次相続でのトラブル等を考えてそれがベストかと考えました。当然、地主への交渉が必要となり、必ずしも承諾を得られるとは限らないことを姉妹に理解してもらいました。しかし、地主との関係も良好だったこともあり、借地権の分割とそれぞれの建替えについての承諾を得ることができました。
 結果として、地主は承諾料収受と地代を約30%増額することができ、姉妹は二次相続まで考慮した上で、それぞれが借地権を所有し、個別に建物を建築することが可能となりました。また、室内の残置物については、SNS等の活用することで約3分の1まで削減し、撤去費用を抑えることができました。さらに、助成金を活用することで解体費用の負担を大幅に削減することに成功。加えて、本件の借地権は不燃化特区に指定されたエリアに位置しており、今回の空家解消により、近隣住民から懸念されていた火災リスクの軽減にもつながりました。

*姉の借地権を妹に半分贈与して、姉妹それぞれが建物を建築

*姉妹それぞれ借地権を所有

コンサルフィーの収受と成功のポイント

 コンサルフィーは、解体費用の圧縮と借地条件変更に伴う建替えの2つの要素に分けてもらいしました。
1:解体費用の圧縮に関する報酬
 確定した助成金に対し、20%を報酬としていただきました。
当方が行った業務として、室内の残置物撤去費用は助成金の対象外であるため、SNSを活用して無料で引取希望者を募るという手段を実施。結果として約100名の問合せがあり、最終的に20組の方に残置物を引き取ってもらいました。なお、本物件の残置物には骨董品などの価値ある品はなく、一般的な食器、衣類、壊れたステレオやガスコンロなどでした。正直なところ、粗大ごみのようなものですが、一部の方にとっては「宝の山」となりえるのです。そのため視点を変えSNS等の活用により引取り手を見つけることができました。
 この結果、残置物撤去費用だけでも当初100万円以上かかると言われていたものが約40万円まで下げられ、かつ、助成金を活用することで、当初見積もりで約400万円以上とされていた解体費用が、コンサル報酬含めてもお客様の負担は約100万円に抑えることができました。
2:借地条件変更に伴う建替えに関する報酬
 借地条件変更を行い、建替えを実施するに当たり、建築費用の3%を姉妹から報酬としていただきました。
 姉妹は実家を手放すことなく、二次相続まで考慮して姉妹それぞれで借地権を持ち建物所有することができました。また、地主は承諾料収受と地代を約30%上げることができ、近隣住民からは空家災害等の不安から解消されました。これにより、地主・借地権者双方にとって最適な条件での借地活用が可能となり、依頼者の意向に沿った形での資産活用が実現しました。
 結果的に解体費用の圧縮と建替えでのコンサルフィーでトータル約200万円をお客様からいただきました。

【お客様からコンサルフィーを頂くために必要な3つのこと】
 コンサルティング業務において、お客様から適切な報酬をいただくためには、以下の3つのポイントが重要だと考えております。
 ① お客様のニーズ深堀と問題を顕在化させること
 ② キャッシュポイントを分けて、報酬支払条件等を業務前に明確に伝えておくこと
 ③ お客様の期待値を適切にコントロールすること

 上記①は、お客様自身が抱えている問題に気づいていなければ、コンサル契約にはつながりません。本件では、もともと地主からの借地契約名義変更の依頼が発端です。借地人である相続人と面談し、単に「アパートを建てたい」という要望を鵜呑みにしていたら、建替え承諾と契約書の見直しだけで、事務手数料数万円の業務で終わっていたことでしょう。しかし、借地人のニーズを深堀りすることで、借地権を相続した際の問題や実家に対しての想いが聞けて、姉妹間の権利調整や地主との交渉の必要性などが明確となり、それらを解決するコンサルティングへとつながりました。その結果、依頼者にも喜んでいただくことができました。
 上記②は、コンサルティングには多くの時間と労力がかかります。そのため、適正な報酬をいただくために、キャッシュポイントを明確に分けて契約を締結することが大切です。特に、借地条件の変更に関しては、必ずしも地主が借地人の要望通りに承諾するとは限りません。そのため、建替えをしなかった場合や第三者へ権利譲渡した場合など、様々なケースを想定し、事前に報酬規程を伝えた上でコンサル契約を結ぶことが大切です。
 上記③に関しては特に重要なポイントです。お客様の多くは、「プロにお金を払うのだから、良い結果になるのは当たり前」と考えています。確かに、プロとして高い成果を目指すのは当然ですが、お客様が思い描く期待値と、実際に実現可能な結果の難易度にはギャップが生じることがあります。このギャップを解消せずにコンサル契約を締結すると、結果次第ではお客様からは「期待したほどではなかった」と感じられ、コンサルフィーの支払いに消極的になる可能性もあります(場合によってはクレームにつながることも)。
 そのため、お客様が抱く期待値と、実際の業務結果の難易度等のすり合わせを行うことが必要です。お客様の期待値が高すぎる場合は、事前に調整し現実的な見通し等を共有しておくことです。結果的に期待値を超えた結果が出た場合には、お客様に感動を与えられ、納得感のあるコンサルフィーの支払いにつながります。
 本件では、業務の途中経過をお客様に報告した際にお客様が驚かれる場面がありました。ご両親は米屋を営んでいたらしく、残置物の一部に大型の業務用精米機が長年放置されており、撤去には100万円ほどかかるといわれたものの、無料で引き取ってもらう事に成功しました。この結果を報告したところ、お客様は期待以上の成果に驚き、コンサルフィーの支払いに対して納得感を持ってもらったのだと思います。

*長年放置されていた大型の業務用の精米機をSNSを通じ無料で引き取ってもらった。

最後に

 私は、会社の枠にとらわれずに自由な発想で不動産営業したいという想いから独立して10年以上が経ちます。独立と同時に不動産コンサルティングマスターの資格を取得し、登録からも10年以上が経過しました。
 不動産仲介会社の営業マン時代は、売買代金数百万円の案件に半年以上もかけてまとめたり、再建築不可の物件を再建築可能にして仲介したりと、お客様には喜ばれてきました。しかし、会社の評価軸は手数料の大小が主で、長期間かけて案件をまとめようが売買金額が少額であれば手数料が数十万円です。結果、当時の所長から「そんな案件断れ!」「お前の案件なんて見たくねえんだよ!」と怒鳴られ、悔しい思いをしたこともありました。
 当時は「コンサルティング」という概念は私の中にはありませんでしたが、重視していたことは「どうやってお客様に売却してもらうか」ではなく、「どうすればお客様に喜んでいただき、私を選んでもらえるか」でした。今回の案件では、仮に借地権を売却していれば1,000万円程度の取引で、仲介手数料は約30万円です。しかし、姉妹の「実家を残したい」という想いを叶えるために問題を解決し、結果として約200万円のコンサルフィーをいただくことができました。
 もし「どうやってお客様を説得して売却してもらおうか」にフォーカスしていたら、手数料は約30万円で終わっていたでしょう。しかし、「どうすればお客様に喜んでもらえるか」を考えた結果、仲介手数料以上の報酬を得ることができました。仮に思い通りの結果にならなかったとしても、お客様の想いを汲み取って業務を行ったこと自体に価値があり、一定のコンサルフィーをいただけたと思います。
 かつての私のように、物件価格の大小で判断され、本当は手を差し伸べたくてもできない現実に悩んでいるのであれば、営業の視点を変えることで、ビジネスとしても成立しお客様からも喜ばれ感謝されることができることを実感していただければ幸いです。

情報提供
株式会社ユー不動産コンサルタント
 脇保雄麻(公認 不動産コンサルティングマスター)